朝5時、足元の重さで目が覚める
出張の日は、いつもより1時間早く目覚める。
けれど今日は、アラームが鳴る前に目が覚めた。
脚が、重かったから。
昨日までの営業でパンプスに押し込まれ続けた足は、夜の間にも回復しきらなかったらしい。
今日の目的地は山口。大阪から新幹線で4時間以上かかる。
ワンピースのスーツに、ベージュのストッキング。
湿度が高い6月の朝。すでに足元は、わずかに汗ばんでいる。
新幹線の中で、脱ぎたいけど脱げない
通路側の席での小さな戦い
新大阪駅。まだ通勤ラッシュ前なのに、ホームはもう蒸していた。
ストッキングの中に熱がこもる感覚を、出発前から感じている。
でも営業女子が我慢するのは、蒸し暑さだけじゃない。
通路側の指定席に座って、私はパンプスを脱ぎたくて仕方なかった。
でも隣には男性。彼がバッグからおにぎりを取り出した瞬間、私は完全にあきらめた。
“もし、私の足の匂いが漂ったら……?”
想像しただけで申し訳なさすぎて、ストッキングの中の足にぐっと力が入る。
訪問先でじんわり蒸れる足と、笑顔の営業トーク
訪問先の床暖房が私を追い詰める
午前中の1件目。
思ったより涼しいかも、と思ったのも束の間。
田舎にある訪問先で床暖房が効いていて、足元がサウナ状態に。
スーツの下で滲む汗、パンプスの中でヌルつくつま先。
「本当にいつもがんばっておられるんですね」
先生にそう言われた瞬間、私は心の中で叫んだ。
「足が、今日もがんばってるんです!」
「匂ってないよね?」と何度も確認する私
商談を終えて車に戻るとき、スーツの下のブラウスが肌に張りついていた。
でも気になるのは、そこじゃない。
歩きながら、靴の中でつま先をクイクイと動かしてみる。
蒸れてる。
たぶん、ちょっと匂ってる。
“まさか、さっきの部屋で……”
そんな不安が頭をよぎるたび、私は笑顔をキープすることに必死になる。
川沿いのベンチでようやく“私”に戻る
パンプスを脱ぐと、空気が変わった
午後の訪問先まで少し時間が空いた。
近くにあった川沿いのベンチに腰かけて、ようやく一息。
誰もいないのを確認して、そっとパンプスを脱ぐ。
ふわっ…と、足元の空気が変わった気がした。
ストッキング越しに風があたって、じっとりとした熱が一気に冷めていく。
その瞬間、私の足から“私だけが知っている匂い”が、ほんのり立ち上る。
少し…安心した。
誰にも嗅がせたことのない、私だけのにおい。
それを感じた瞬間、「今日も私、生きてるな」って思えた。
夜のホテルで、足をほどく
ストッキングを脱ぐという“儀式”
すべての予定を終えて、夜7時。
ようやくビジネスホテルにチェックイン。
ドアを閉めると同時に、私は靴を脱ぐ。
パンプスの中で蒸れていた私の足が、一斉に呼吸を始める。
この瞬間が、出張の日の中で一番ほっとする時間。
ストッキングをゆっくりと脚から外す。
ふやけた足裏がひんやりと冷えていく。
その匂いは、もうすっかり“私の日常”になっていた。
誰にも知られない、でも確かに残る“私の証”
ベッドに腰かけて、ふくらはぎをマッサージしながら思う。
今日も、よく動いた。
誰にも知られずに、蒸れて、匂って、それでも笑っていた。
この脚が、今日の私を全部支えてくれた。
明日も、同じような一日が待っている。
きっとまた、蒸れて、疲れて、誰にも見せない匂いを抱えて働く。
でも、それが私の“リアルなかっこよさ”なんだって、今は思える。
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